
FX相場のアノマリー – 歴史は繰り返す
FX市場を分析していると、理論的には起こりえないはずの「異常現象」が繰り返し発生することに気づくことがあります。この現象を「アノマリー」と呼びます。効率的市場仮説によれば、このような予測可能なパターンは存在しないはずですが、実際の市場ではさまざまなアノマリーが観測されています。この記事では、FX相場で見られる主なアノマリーとその活用法について解説します。
市場の効率性とアノマリーの不思議な関係

効率的市場仮説では、市場価格にはすべての情報が織り込まれており、将来の価格を予測することは不可能とされています。しかし現実の市場では、統計的に有意な「アノマリー(異常現象)」が繰り返し観察されます。
アノマリーが存在する理由としては、以下のような要因が考えられます。
- 市場参加者の非合理的な行動パターン
- 機関投資家や企業の定期的な取引活動
- 季節的な資金フローの変化
- 市場の構造的な特性
アノマリーの多くは、市場参加者の集合的な行動パターンから生じています。例えば、多くのファンドが月末や四半期末に資金調整を行うため、その時期に特定の値動きが観察されるなどです。
月ごとのアノマリーは存在する?
株式市場では「5月に売り、11月に買い戻せ(Sell in May and go away)」という格言があります。しかしFX市場ではどうでしょうか?
例えば、8月は円高になりやすいなどという調査結果もあるようですが、確率的には50%台で明確な偏りとは言えないかも知れません。
ただし、12月は年末のポジション調整による乱高下が起こりやすかったり、1月の値動きがその年のレンジ幅になることが多い等のアノマリーは存在するようです。
曜日ごとの値動き特性について
FX市場では曜日ごとに特徴的な値動きが見られることがあります。
- 月曜日:週末のニュースを受けてギャップが生じることがあり、その後のギャップ解消の動きが見られることも
- 水曜日:米国の経済指標が多く発表されるため、ボラティリティが高まりやすい
- 金曜日午後:週末を控えてポジション調整が入りやすく、欧米トレーダーがポジションを手仕舞う傾向あり
曜日効果は、USDJPY(ドル円)やEURUSD(ユーロドル)などの主要通貨ペアで特に観察されやすい傾向があります。ただし、重要な経済指標の発表やイベントがある場合は、これらの通常のパターンが崩れることも少なくありません。
時間帯による値動きの特徴
FX市場は24時間動いていますが、時間帯によって値動きの特性が大きく異なります。この時間帯によるアノマリーについては、当サイトの「取引時間帯による値動きの特徴」の記事で詳しく解説しています。
カレンダー要因によるアノマリー
FX市場には特定の日付に関連したアノマリーも存在します。

ゴトー日の効果
日本では5日、10日、15日、20日、25日、月末(30日/31日)は「ゴトー日」と呼ばれ、企業の貿易決済や給料日などと重なるため、円相場に特徴的な動きが見られることがあります。一部の研究では、ゴトー日の朝10時に向けてドル円が上昇する傾向が報告されています。これは輸入業者がサプライヤーへのドル建て支払いを行うために円売りをするからです。 しかし、東京フィックスに向けては輸出企業が円買いに動くため円高になりやすい傾向にあります。 特に月末のゴトー日は、輸出企業のドル売り円買いが集中する傾向があります。
月末効果
月末には多くの機関投資家がポートフォリオの調整を行うため、特徴的な値動きが観察されることがあります。特にドル円では月末にロンドンフィックスに向けてドル高傾向が見られることがあります。これは、様々な国際指標や投資ベンチマークの再調整が行われるためです。
月末のドル高傾向は、海外投資家が月末の指標集計のために米ドルを買い戻す動きや、企業の月末決算対応などが影響していると考えられています。
年度末(3月末)の動向
日本の年度末である3月末には、日本企業による決算対応のための特徴的な値動きが見られることがあります。特に以下のようなパターンが観察されます。
- 3月中旬から下旬にかけて円高圧力が高まる傾向(企業の海外利益の本国送金)
- 年度末の最終営業日に向けてボラティリティが上昇
- 新年度初日(4月1日前後)に円安に振れるケースも
政治経済イベントによるアノマリー

日銀総裁の交代
日銀総裁の交代は通常5年ごとに行われ、新総裁の金融政策スタンスによって円相場が大きく影響を受けることがあります。例えば、ハト派(緩和的政策選好)の総裁就任期待が高まると円安圧力が、タカ派(引き締め的政策選好)の総裁就任期待が高まると円高圧力が強まる傾向があります。
総裁交代アナウンスの1〜2ヶ月前から思惑が市場に織り込まれ始め、就任後の初めての金融政策決定会合での発言によって再度大きく動くケースが多いようです。
米大統領選挙とドル円相場
米国の大統領選挙は4年ごとに行われ、選挙年と選挙後の年ではドル円相場に特徴的なパターンが見られることがあります。
- 選挙年は不確実性が高まるため、ボラティリティが上昇する傾向
- 選挙結果が明らかになった直後は一時的な反応があり、その後新政権の政策期待を反映した動きへ
- 民主党政権はドル安傾向、共和党政権はドル高傾向という一般的な見方もあるが、実際の政策内容による影響の方が大きい
国内の選挙による影響
日本の政治選挙、特に自民党総裁選と総選挙は、円相場に顕著な影響を与えるアノマリーの一つとして考えられます。政治的な不確実性や政策変更の可能性が円の値動きに反映されることがあります。 自民党総裁選の開票が進むにつれて日中のチャートが大きく動くということも実際に発生しています。
これらの政治経済イベントは、短期的なボラティリティを高める要因となるため、イベント前後はリスク管理をより慎重に行う必要があります。
アノマリーを活用するための実践的アプローチ
当サイトではトレード判断においてテクニカル分析を最も重要視します。 ダウ理論、マルチタイムフレーム分析、水平線での分析がコアとなります。 相場のアノマリーについては補助的な判断材料として活用することをおすすめします。
過去チャート検証をすれば分かりますが、殆どの場合はアノマリーを気にしなくてもテクニカル分析で利益を出せます。 ただし、ゴトー日や政治イベントなどは意識しておくことでトレード判断に活用するメリットがあるのは事実です。
まとめ:アノマリーを味方につけたトレード戦略
FX相場のアノマリーは、市場の非効率性から生じる統計的なパターンです。これらを理解し、適切に活用することで、トレードの優位性を高めることができます。
ただし、アノマリーはあくまでも「傾向」であり、100%の確率で機能するわけではありません。当サイトで推奨している基本的なテクニカル分析(ダウ理論、水平線、マルチタイムフレーム分析)を土台とした上で、補助的な判断材料として活用することがおすすめです。
「歴史は繰り返す」という言葉がある通り、市場の動きにはパターンが存在します。しかし、同時に「今回は違う」という言葉も市場では頻繁に聞かれます。アノマリーに気を取られ過ぎることなく、適度なバランスで活用するように心がけましょう。